くじびきでPTA会長になりました!

これまで役員すらやったことない私が、くじびきでPTA会長になっちゃいました。ビビりで人見知りで小心者。前途不安なPTAライフを綴っていきます

PTAショートショート

※注意※

いきおいで書いたPTAショートストーリーです。 ちょっとふざけてます。オチなし。

 

 年度初めに開かれたPTA総会で、一人の保護者が声を上げた。

 

「PTAなんて無駄だ!廃止だ!廃止にしろ!」
「PTAは無駄だから廃止ですか?」
「そうだ!平日に集められてこっちはいい迷惑だ」
「他にご予定があるなら、そちらを優先させていただいて構いませんよ」
「そういうこと言ってるんじゃない!PTAは無駄だから止めろと言ってるんだ!」
「ふむ、そこまでおっしゃるなら、あなたはご存知なのですね」

 

 そういうと、PTA会長――なつめは大きな袋を取り出した。紙袋ノンノン♪1週間分の食料を買いこむときに使うような屈強なエコバックだ。

 

「なんだ、それは?」
「これですか、これは――」

 

 なつめはすっと目を細め、カバンの中身をぶちまけた。中から出てきたのは、A4ファイルやUSBメモリなどの前会長から引き継いだPTA資料たち。その量の多さに相手は思わず目を見開き、なつめは悲しそうに目をふせた。

 

「前年度の会長から引き継いだPTA資料です」
「前年度分?会長資料?……まさか!」
「会計や書記、他の役員の資料もあわせるともっとあります」

 

 PTA本部役員選出会のときに聞かされたPTA活動、実際はそれよりも多くのPTA活動があった。4月の予定だけ見ても、入学式のお手伝い、本部会、新年度の委員決め、運営委員会、総会、PTA連絡協議会など校外活動もとにかく盛りだくさん。それ以降も言わずもがな。

 

「ここにはPTAがどんな活動をして、どうしてこんな活動をしているのか、その他諸々、書かれています。PTAの全てを否定されるなら、全てを知っておられるのでしょう?」
「そ、そんなの把握できるわけがないだろう!」
「よくも知らないのに、PTAを否定されていたのですか?」
「そんな資料見なくてもわかる!PTAなんぞ無駄無駄無駄無駄!」

 

 悲痛だ。PTAをよく知らないまま入会することを是とされる保護者たち。非会員の子として我が子がのけ者にされるのではと、否といえない保護者もいることだろう。しかし、多くの役員たちも少し前まではそうだったのだ。

 

「ふっ、あなたの気持ちは痛いほどわかりますよ。私もそう思っていましたから。でもね、無駄だから止めろという言い方は、こちらの意見を聞かず自動入会させるのと似ていませんか?あなたの事情は知らないけど、とにかくやってくださいねっていうアレです」
「全然ちがう!」
「そうですね、違いますね」
「違うのかよ!?」

 

 くじ引きで会長になったなつめ。役員という立場と保護者という立場の間で、思うことそれはーー

 

「PTAに入って当たり前、PTAがあって当たり前、そんな考え方が当たり前になりすぎて、なんのためPTAがあるのかそれが見失われているとは思いませんか?子どもたちがよりよく育つ環境のためにできることをする、任意のボランティア団体――それがPTAだったはず。それなのに、いつからこうなってしまったのか。みんな平等にポイント制?やらない人は不公平?いやいや、PTAはボランティア団体です。おかしいですよね」

 

 そこまで言いきって、なつめの目の奥がじんと熱くなるのを感じた。いまのPTAはおかしい、そう思っているのは事実。でも、なくなってほしいわけじゃない。正しいカタチでPTAをやりたいのだ。

 

「そんなの理想論だ。現実を見てみろ!みんな強制されているじゃないか」
「それはね、もうPTAと呼ばないんですよ。違法団体です。おかしいと声を上げるべきです。しかし、今の状況でそれはとても勇気がいることでしょう。今日、あなたがPTAを廃止を叫んだことも、とても勇気のいる行動だったと思います」

 

 そう、否定されることはとても怖いことなのだ。PTAを否定されることも、PTAを否定したことを否定されることも。

 

「それじゃあ、廃止でいいじゃないか」
「ふむ、PTA会長としては心が折れる発言ですね。世の中には違法PTAがほとんどかもしれないが、そうじゃないボランティアでラクにやっているPTA、そうなろうと変わろうとしているPTAだってあります。ですからね、廃止を訴える前に、まずはどんなPTA活動をしているのか知っていただきたいんですよ」

 

 そういって、なつめはPTA活動をラクにする提案書を配り始めた。できる人が、できるときに、できることを――人の集まらない、負担の大きな活動は見直し、保護者の状況にあわせてPTAのあり方を変えていく、そんなPTAの提案だった。

 

「PTAもいろいろで一概にこうとはいえるものではありません。だから、ここでPTA廃止を叫ぶより、まずは任意加入を、入退会が自由だということを叫んでほしいのです。任意加入なのにそれが周知されないと、入ってない人の肩身が狭いままです」
「PTA廃止を叫べば、PTA役員の肩身が狭くなるな」
「それは否定しません。でも、肩身が狭くなるというよりは心が折れそうですね。PTA活動をすべて否定されているようなものですから」

 

 学校や幼稚園によっては、入学式や卒業式、運動会など大きなイベントは教職員だけでは手が回らない。PTAがなくなれば、教職員の負担が増え、イベントを縮小し開催できないところもある。また、外部の目が届きにくい学校を見守る、第三者の目にもPTAはなれるのだ。

 

「任意加入を叫ぶか……いったいどこに向かって叫べばいい?」
「ふふ、話が早いですね。それでは、PTAの上部団体にあたる存在にみんなで叫んでみませんか?」
「上部団体?」
「多くのPTAは県や区のP連(連絡協議会、連合会)に所属しています。それにプラスして都道府県のP連、全国レベルの日本PTA協議会――通称“日P”にも所属しているPTAも少なくはありません。そこに、任意加入の周知について要望を出すんです」
「強制加入、負担が大きい、無理やり活動に参加させられた、そういう訴えもそこにしていいのか?」
「改善されるように、上位団体から各PTAに呼びかけてほしいと要望を出しましょうか。私はボランティア団体であるPTAに、講演会や研修、地区行事の庶務業務に強制参加させるのもおかしいと訴えるつもりです。子どもありきのPTAに、夜間や祝日、子どもを留守番させて講演会に参加させている状況があることを、どう考えているのか知りたいもので」
「それは、ぜひとも知りたいな」
「声は大きければ、大きいほうがいいですからね」

 

 ふたりは目を合わせて笑った。おかしいと感じたら、声をあげなくてはなにも変わらないのだ。

 
 ……おわり

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